旅人で作家のブルース・チャトウィンは、幼少の頃、祖母の家のガラス張りの飾り棚にあった“ブロントサウルス”の毛皮をきっかけに、先史時代や人類史に関心を抱いた。美術品の蒐集家、考古学の研究生、ジャーナリストと、様々なフィールドで非凡な才能を発揮したチャトウィンが最終的に選んだのは、自らの足で旅をしながら小説を書く人生だった。南米を旅し、デビュー作「パタゴニア」を書き上げたチャトウィンは、その後、アボリジニの神話に魅せられ、中央オーストラリアを旅した。当時は不治の病だったHIVに感染し、自らに訪れる死を悟ったチャトウィンは、死に近づいたアボリジニが生を受けた地に帰還するように、自らの死に方を探りながら「ソングライン」を書きあげた。映画は、一枚の毛皮から始まったチャトウィンの旅がユーカリの木陰の下で終わるまで、その過程で交差した人々のインタビューを交えながら、全8章、ヘルツォーク監督自身のナレーションで綴られていく。
ブルース・チャトウィン
作家/1940年、イギリス生まれ
オークションで有名なサザビーズで美術鑑定士、収集家として成功を収め、その後、エジンバラ大学で考古学を専攻する。幼少の頃から先史時代に興味を持っていたチャトウィンは、見慣れない物を求めて世界中を歩いた。1978年に「パタゴニア」で作家デビューを果たし、栄誉ある数多くの賞に輝き、時代を代表する作家としての地位を築く。1989年にHIVで他界するまで5作の小説を発表した。
バイオグラフィー:「パタゴニア」(77)、「ウィダーの副王」(80)、「黒ヶ丘の上で」(82)、「ソングライン」(87)、「ウッツ男爵」(88)。
ヴェルナー・ヘルツォーク
映画監督/1942年、ドイツ生まれ
1960年から60作以上、映画の監督、脚本、プロデューサーを務める。ヴェンダースやファスビンダーと並ぶニュー・ジャーマン・シネマの旗手。『カスパー・ハウザーの謎』(74)でカンヌ国際映画祭審査員グランプリ、『フィッツカラルド』(82)で同監督賞を受賞する。近年では精力的にNetflixやAppleなど国際配信会社とドキュメンタリー作品を手がけている。ヘルツォーク監督のドキュメンタリーが日本で劇場公開されるのは、『世界最古の洞窟壁画 忘れられた夢の記憶』(2012)以来10年ぶり、岩波ホールでの作品公開は『アギーレ・神の怒り』(83)以来39年ぶりとなる。
主なノミネート/受賞
アカデミー賞ノミネート(1983, 2009)、エミー賞ノミネート(2009)、2020 全米撮影監督協会 ボードオブガバナー賞、2019 ヨーロッパ映画賞 生涯貢献賞、2013 ドイツ映画賞 ドイツ映画界への貢献賞、2006 全米映画協会ドキュメンタリー部門最優秀監督、2006/2012 全米映画批評家協会賞 ノンフィクション映画賞